東北に来るにあたり、佐久・若月をおそらく誰よりも、と言っていいほど大事に思っていたこともあり、また農村部を守る医師が潤沢にいるわけではない事実もあり、悩みもあったが、医師不足の東北に、医療を通じて地域を守る、いのちを大事にする社会を目指す、若月精神を広めることは、それにも増す大事なことだと考えた。
患者さんに泣かれたこともあったが、多くの方は、東北の惨状を見て、こころよく送り出してくれた。
当初より、市立病院の再建を意識して医師確保を目指して欲しいという伊勢院長の意向と、東北にプライマリケア医養成拠点を作って、地域を守る医師を育成したいという私の生涯のミッションが一致し、全国から人を募った。
他に誘われたところもあったが、開成を選んだのは、阪神の仮設支援の経験から、仮設は徐々に縮小していくが、地理的に開成であれば、市内の在宅医療に切り替えていけば、仕事がある(医師を確保していくことが可能)と考えたこともあった。幸い優秀な指導医が全国から集まり、また被災地で地域のことを学びながら、被災地の支援に関わりたい、と考える若い医師がプレハブの診療所に集まり、指導医4人専修医3人の7人と、東北で3本の指に入るプライマリケア研修機関となっていた。
開成では、内科標榜だったが、実際は多くのメンタルの課題を抱えた方々を診療した。広くいうと、うつとPTSDで500人近くの方を診療したこととなり、おそらくその7割ぐらいは私が診療・診断したものである。
その多くは、身体症状を訴えて受診、もしくは風邪などの受診時に、コミュニケーションをとりつつ状況を聞き出すと、実はうつやPTSDという方が、ほとんどだった。特にPTSDは、ほとんど診断・診療されていないのが被災地の現実である。私が学んだ知識では、時間がたつとPTSDの治癒は難しいということだったが、私が関わらせていただいた方々は、多くは相当に改善した。
それはその筋の日本の権威の先生にも評価していただき、厚労省の班会議にも参加させていただくこととなった。おそらく今でも、PTSDや鬱の方は、たくさんいるのが被災地の現実であるが、それをうまく支援者につなげていないことは大きな課題である。
いくら心のケアが大事といっても、心のケアが、精神疾患をイメージし、そのスティグマ・偏見が強い以上、心のケアを忌避する傾向が強い。
認知症などでもみられるが、東北・石巻では、精神科・こころを病む元への忌避が著しい。そういった方々を、一般診療を行いながら、数多く診療させていただき、多くの方々が改善されたことを経験し、被災地でこそ、プライマリケアで、メンタルを少しでも見られれば、被災地の課題は大きく減ると確信している。
またこれからの取り組みでも、飽かず多くの、心病む人々をどう支援者につなげるのか?大きな課題だと感じている。